コラボレーションによる争い解決法: Michael Gregory 氏へのインタビュー

On By Amanda Holst1 Min Read
Collaboration conflict style
争いごとの対処では、使い古された言葉で言えば「水に流す」とか「矛を収める」といった解決に落ち着くことが多いものです。しかし争いごとの解決を専門とする Michael Gregory 氏によれば、もっと良い手、それも当事者双方にとってウィンウィンの折り合いの付け方があると言います。それがコラボレーションによる争い解決法です。成功の秘訣は何でしょうか。それこそがコラボレーションです。コラボレーションは関係のないように思える場合でも、重要なのです。

The Collaboration Effect (コラボレーションの効果)

Gregory 氏がコラボレーションによる争い解決法について語った著書『The Collaboration Effect (邦題仮訳: コラボレーションの効果)』では、協調的な働きかけによって争いごとを乗り越える方法論が展開されています。この本の中で、Gregory 氏は数十年にわたる経験に神経科学における最新の研究結果を交えつつ、争いごとの解決においてコラボレーションの効果を発揮するための 3 つの中核要素と考える、次のアクションについて説明しています。
  1. つながりの強い関係性を築く
  2. 積極的に傾聴する
  3. 思慮深く教育を行う
現在 Gregory 氏は、リーダーが困難な状況を切り抜け、より効率的にコラボレーションを行うのに欠かせない手立てを習得するための支援活動に従事しています。今回、本業のコンサルティングで忙しいスケジュールの合間を縫って、Gregory 氏の著書について、そして職場でのコラボレーションと争い解決の間にある無数の接点について語っていただきました。

Amanda Holst (以下、AH): 本日はお忙しいところお時間をいただきありがとうございます。本題に入る前に、読者に向けて職場で多く見られる争いごとのタイプについて簡単に説明していただけますか。

Michael Gregory (以下、MG): 争いごとには色々なタイプがありますが、私がまず例えとして思い浮かべるのは組織図です。上には上司、下には部下がいて、横には同僚がいます。そこにベンダーやその他の関係者、株主など組織内外のあらゆる種類の人が加わります。その誰もが、何かをしようとする際に争いごとを起こす可能性があります。私が主眼を置いているのはその争いごとにかかわる人的要素です。私はプロセスに目を向け、そのモデルにおける要素や手法を排除ないし低減するために何ができるかに注目しています。 一例としてユーザーにとっての「使用品質」を考えてみます。私たちはユーザーにとっての使用品質をどれほどないがしろにしがちでしょうか。その結果がどのように争いごとを引き起こしたり、こじらせたりするおそれがあるでしょうか。その他にも事業の成果や収益性、便宜主義などが問題になる場合もありますが、その多くはシステム本位あるいは人間本位の問題です。私が主眼を置いているのは人的要素ですが、どちらの要素も重要なのは確かです。

AH: 職場でのどのような争いごとがコラボレーションに悪影響を与えるとお考えですか。チームでのコラボレーションにさらなる弊害をもたらすような争いごとはありますか。

MG: あるチームに目を向け、そこで起きている争いごとについて考えるとします。ある調査によれば、従業員が争いごとに関連する問題に費やす時間 (これを「争い時間損」と呼ぶことにします) の平均は、週に約 2.8 時間になるといいます。この結果を考えるなら、未解決の争いによる心身への負荷が従業員、ひいてはその生産性にとってどれだけ悪影響を及ぼすかは明らかです。 こうした弊害によって本来なら別のところに回せるはずのあらゆるリソースが消費されます。このことは対人関係にも悪影響を及ぼし、自然の成り行きとして、業務上の成果にもマイナスに働きます。ですから職場でのこうした争いごとを解決する (蓋をするのではなく) のと同時に、チーム ビルディングとコラボレーションを促進する必要があります。欠けていると思われる関係の構築について理解を促し、その発展に努めなければなりません。本の中で説明していますが、鍵となるのは、つながりの強い関係性を築くこと、積極的に傾聴すること (率直に言ってほとんどの人はこれが苦手です)、そして思慮深く教育を行うこと、つまり従業員にとって好ましい方法で教育を行うことです。口で言うのは易しく実行するのは難しいですが、このプロセスを取り入れることでチームの架け橋を築き、不健全な状況に終止符を打とうというのが私たちの取り組みです。 物事がうまく行くのは皆がチームの一員として動いているときです。それは仕事の場合もあれば仲間とともに楽しみながら行う活動の場合もあり、スポーツ活動の場合もあります。すべてが首尾よく運んでいるときは、あらゆる種類のさまざまな物事がチームの一要素になりえます。そのような状況ではそれぞれが自分の役割を認識し、今何をしているのかを理解しています。それは心躍る楽しい時間です。そのような効果的なチーム コラボレーションから生まれる喜びのようなものが、そこにあります。 今度はそれとは正反対の状況、皆さんも経験しているかもしれないような状況を想像してください。何かにつけ不平を口にしやすい空気、あるいは日常的に不満や不安を感じ、周りとは決して協力できないという雰囲気です。そのような環境では「なぜいつも文句を言われなくてはならないのか」、あるいは「どうしてお願いしたことをやってくれないのか」といった疑問を持つかもしれません。 そこには別の問題があります。それは、依頼された側は指示通りに仕事をこなしたのかもしれなくても、依頼した側の本来の意図とは異なっているために、正しい結果にならないということです。非難するのは簡単ですが、私がマネージャーの職にあった頃、自身の行いを振り返ってみて大いに学ぶところがありました。指示が曖昧だったのではないか、自分でもどうしたいか理解しきれていないのに相手に指示を出したのではないか。あるいは権限の委譲が不適切だったのではないか、そう考えたのです。配慮不足や不適切な対応はどのようなものであれ、自分たちだけでなくチーム全体にとって争いごとの種になりうるのですから、こうした内省には大いに価値があります。 そういうわけで、私たちにはできることがあるのですが、往々にしてそうした考えを払いのけたり、何とか理解してもらえるだろうと考えたり、あるいは自分だけが答えを知っているという風に考えがちです。こうした点に関する争い解決の多くは、つながりの築き方、傾聴、教育という 3 つの要素にかかわっています。

AH: 争いごとの中でコラボレーションの効果を引き出すには、リーダーはまず何をすべきでしょうか。旧弊を廃してコラボレーションによる争い解決法を受け入れるにはどうすればよいでしょうか。

MG: 争いごとがあれば、まずはそれに対処すべきです。こういうときに厄介ごとを黙殺してしまう組織が多いのは、そうすれば問題が過ぎ去って、二度と煩わされずに済むかもしれないと考えるからです。リーダーシップの視点から言えば、この態度はこの職場では争いごとは放っておけばよいという気風を決定づけることになります。 争いが生じていると思われる状況に対して行動を起こさないのは、周囲に負の影響を与えます。問題があるかもしれないという状況では、そのことをマネージャーとしてスタッフに周知する義務があります。対人関係の基本は信頼であり、お互いに信頼し合うことが必要です。 私の経験では、争いを引き起こしたり加熱させたりする原因はコミュニケーションがうまくいっていないことである場合が多く、事例の 90% を占めます。ですから、それぞれの当事者と話をし、私見を交えずに両者がお互いの言い分に耳を傾けるように仕向けられれば、もう次の段階に進んだも同然です。話し合いの場としては Webex を利用した電話でもいいですし、お店でコーヒーを飲みながらや、外を歩きながらでもいいでしょう。大事なのは、お互いが考えていることを伝えるときに落ち着いて相手の話を聞けるような空間を作ることです。 ある調査によると、考え方の 7% は言葉に表われるといいます。テキスト メッセージなどを送る際は、その言葉に頼る以外の術がなく、考え方の 7 % しか伝えられないのです。今この場で誰かに電話をかけるとします。電話なら話し方や声の抑揚を感じられます。考え方の 38% は、話し方から伝わるものだといいます。そして残りの 55% は表情や身振りに表われるのです。 こうしたデータからはっきりと言えるのは、コラボレーションによる争い解決法では、相手と顔を合わせたときにこそ、最も良いコミュニケーションがとれるということです。2 番目に良い方法はビデオ会議で、3 番目は電話です。 以前働いていた職場に、次のようなポリシーがありました。誰かにメールを送って、相手から返信があればそれを 1 往復としてカウントします。もう 1 度往信と返信があれば、それで 2 往復とします。そしてメールのやり取りを 2 往復して争いを解決できなかった場合、相手に電話をかけるかオフィスに出向いて話をしなければならない、というものです。このような行動をとらせる理由は、文字に頼った不十分なコミュニケーションでは双方にとって時間の無駄となるからです。

AH: 争いが起きている状況でコラボレーションを改善するために必要なスキルとはどのようなものでしょうか。

MG: 1 番大事なのは、問題を適切に把握するスキルだと思います。問題を正しく捉えられているか。何が問題なのか。そこからさらに踏み込んで検討すると、別の要素に分けて考える必要が出てきます。例えば、適切な姿勢という要素があるとします。お互いの姿勢はどのような状態か。判断の準備は整っているか。こうした要素を理解することで、冷静さを保ち、相手を拒絶しない心構えで争いごとに臨むことができます。 争いごとの詳細に踏み込むには相手に「どんな間違いを犯したのか」を問うのではなく、「そのとき何があったかを話して」もらうように努めなくてはなりません。 私の経験では、「解決策を提示するつもりはない」という姿勢でいることも有効です。肝心なのはコラボレーションであることを思い出してください。案を提示するのではなく、積極的傾聴に注力します。積極的傾聴には、相手から聞いた話を表現を変えて相手に伝えることで、認識が一致していることを確認するという意味があります。質問をするときは自由に回答できる形式にします。相手に共感し、判断を急がず、理解を示してください。決して解決策を提示しないでください。話を聞いてくれる相手に対しては、同じように耳を傾けてくれるものです。まずは聞き手に回ってください。こうしたことはすべて、自身の姿勢を理解し、誠意をもって争いごとに取り掛かるときにのみ、成し得ます。相手の助けとなるためにその場にいるということを肝に銘じてください。

AH: 争いごとが起きている状況で、より効果的にコラボレーションをするために必要となる具体的なステップについて、もう少し詳しく説明していただけますか。

MG: わかりました。それでは自著の内容についてもう少し取り上げてみましょう。一度も会ったことのない人とやり取りをするという状況を想像してみてください。電話をかけたりメールを送ったりする前にどんなことをしますか。まず、その人物のことを調べます。複数の情報源を駆使して、LinkedIn で経歴を確認し、その人物と面識がある人や一緒に働いたことがある人が自分の知り合いにいれば、出身地を確かめます。コーヒー派か。朝型か。自分と同じ大学に通っていたか。何らかの接点がないか探そうとするでしょう。 そこから意思やマインドフルネスに立ち返り、相手と接触する前に自分のことに集中します。私個人としては、マインドフルネスは争いの解決を試みるのとは直接関係ないときでも実践すべきだと思っています。1 日に最低 10 分、できれば 1 日 2 回は時間をとって瞑想や祈り、内省、ヨガなどと合わせてこのスキルの習得に努めることをお勧めします。 神経系で扁桃体ハイジャックと呼ばれる状態が起こって、脅威と感じる事象に直面すると「戦うか逃げるか反応」が引き起こされますが、その場合もマインドフルネスが役立ちします。ある研究結果によると、感情的な反応によって引き起こされる化学物質やホルモンが全身に回るのを食い止めるために、6 秒から 10 秒程度の時間が必要だということです。この物質は最大で 22 時間経過するのを待つか、適切な睡眠をとるまで体内にとどまる可能性があります。マインドフルネスを実践することで、6 秒から 10 秒の間、意図的にそのトリガーに立ち向かうための意識を自分の中に満たして、平静さと能力を保ち自信に満ちた状態を維持することができます。 私自身は神経科学の専門家ではありませんが、神経科学者たちと 9 年間仕事をともにすることで実にたくさんのことを学びました。『The Collaboration Effect』(コラボレーションの効果) の大部分は、神経科学者たちのインサイトを参考にしています。マインドフルネスなどのテーマに関する科学的根拠のあるインサイトに興味のある方は、カリフォルニア大学バークレー校が運営しているグレーター グッド サイエンス センターをご覧になることをお勧めします。数多くの貴重な情報が無償で提供されています。Erika Garms 博士の著書『The Brain-Friendly Workplace (邦題仮訳: 脳に良い職場)』もお勧めです。

AH: コミュニケーションの話に戻りますが、著書の中からリーダーたちに覚えておいてもらいたいインサイトを 1 つ教えていただけますか。

MG: これですね。マネージャーの 90% が自分の伝え方は効果的だと考えていても、同じように感じてくれている従業員は 30% 程度である、ということです。こうした齟齬から生じるあらゆる不和を想像してみてください。助言としてあらゆる業界のリーダーたちに伝えたいのは、コミュニケーション スキルを磨く努力を欠かさないでほしいということです。相手の話を聞くこともその一環です。 チームのメンバーはあなたのことをコミュニケーション上手だと感じていますか。アンケートなど何らかの方法で確かめたことはありますか。あなたの価値観が伝わっていますか。この人なら話を聞いてもらえる、自分のことを尊重してくれると感じているでしょうか。どうしてそのように言えますか。 メンバーにこうした質問をすることから始め、その答えを求めていけば、コミュニケーションの取り方を改善し、今後コラボレーションを強化していくことができます。

AH: シスコは「インクルーシブな未来を実現する」という指針を最も重要な使命に掲げています。コラボレーションによる争い解決法にインクルージョンを組み込むにはどうすればよいですか。

MG: インクルージョンという言葉で思い浮かべるのは、多様性や公平性、それに包括性です。私はその分野での取り組みを推進し強化していくことに情熱をもって取り組んでいます。リーダーは常に共感を示し、相手がどう感じているかだけでなく、他の人がどのように感じるかを理解することが求められます。ないがしろにされているのは誰か。その人はどういう気持ちになるか。 私の経験から言えば、優れたリーダーは「これが我々のやり方だ」とは言わずに、「あなたはどう思いますか」とたずねるタイプが圧倒的に多いです。そしてその真摯な問いかけによって、さまざまな理由から除外されがちな人も含めた、多様な意見を引き出すことができます。大事なのは皆の意見に耳を傾ける環境です。 経営陣においては、その問いかけに対する答えに基づいて、社会的に意味のある行動をとることも重要になります。リーダーへの信頼は、一定の価値を持っているというだけでなく、行動を起こし、その価値を具体化して発揮することで築かれます。 このようなコラボレーションによるリーダーシップを考える上で有用な枠組みがあります。それが 4 つの E、すなわち、平等 (Equality)、公平 (Equity)、共感 (Empathy)、教育 (Educate) です。 最後に、効果的でインクルーシブなチーム コラボレーションについての話になりますが、リーダーからの質問で多いのが「チームでもっと協調的に仕事に取り組むにはどうすればよいですか」というものです。私の考える答えは、どのようなタイプのリーダーであれ、チームを理解しチームに報いることです。私たちは個人の功績を認め、強調しすぎるきらいがありますが、大抵その活躍の背景にはチームの支えがあります。リーダーには「もっとチームを評価し、認め、称え、貢献に見合う報酬を与えることはできないか」と自問するように勧めます。その問いかけが一石となってやがて組織全体に広がり、コラボレーションのあり方を良い方向に変えていくのです。

おわりに: Michael Gregory 氏からのメッセージ

最も基本的なレベルのコラボレーションとは、2 人以上の人間が共通目標の達成を目指すことです。真に心の通ったつながりの強い関係性を築き、他者の言葉に積極的に耳を傾け、思慮深く相手の望む方法で教育に取り組めば、見えないふりをすることなく、架け橋を築くことができます。本当の意味でお互いにとって有益となる結果を模索するのはこれからです。一見無関係と思えるときでも、鍵となるのはコラボレーションであることを忘れないでください。皆さんの成功を祈っています。 *** コラボレーションの関連記事

About The Author

Amanda Holst
Amanda Holst Communications Program Manager Cisco
Amanda has over 20 years experience in project/program managing, marketing, digital content, and start-ups.
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